第27回「SGIの日」記念提言B         創価学会インタナショナル会長 池田 大作 テロ防止は「人間の安全保障の」視点で 貧困 軍縮への取り組みが急務 国連「平和のための人権教育の10年」を  以上、テロ防止のための制度づくりと、紛争後の平和建設について論じましたが、これら の「事後的な取り組み」とともに要請されるのは「予防的な取り組み」――つまり、テロや 紛争をなくすための環境づくりを、世界が協力して推し進めることであります。  まず、「予防的な取り組み」に国際社会が全力をあげる。しかし、それでもテロが起こって しまった場合には、「法による処罰」を原則とした国際社会の合意に基づく晋遍的なルールで 対応するという、二段構えで臨むことが重要であると考えます。  私は数年来、「人間の安全保障」に立脚した国際協力の枠組みをつくることが時代の要請で あると訴えてきました。  その観点から「人権」「貧困」「軍縮」の三つの柱からなる予防的なアプローチについて、 具体的な提案をしたいと思います。 人種差別、排外主義から脱却を  第一の「人権」ですが、とくに私は、人間の心の面からの予防的な取り組みとして、「人権 教育」の重要性を訴えたい。  昨年は、国連が定めた「人種主義、人種差別、排外主義、不寛容に反対する動員の国際年」 であり、南アフリカのダーバンで世界会議が行われました。  これに先立つ形で、NGO(非政府組織)のフォーラムも開催されましたが、そこに参加し たSGI(創価学会インタナショナル)の代表団を通して、私は国連「人権教育のための10 年」(1995−2004年)に続く、国連「平和のための 人権教育の10年」の設置を提案しました。  ダーバン宣言で謳われた「すべての人が共存し、平等・公正・人権・安全が共に享受され るような公正で包括的かつ永続的な平和」を実現するカギは、この人権教育の地道な実践し かないと考えます。  どんな人間も、生まれた時から排他的な考えを抱いているわけではありません。成長する 過程で、偏見や差別感情などを植え付けられ、他の集団への憎悪を募らせてしまう場合が多 い。  こうした観点に立って、SGIではこれまで、国連「人権教育のための10年」を支援する 形で、「現代世界の人権」展の巡回をはじめ、人権セミナーの開催など、意識啓発の活動に継 続的に取り組んできました。  また昨年からは、とくに子どもたちへの教育的側面を重視し、世界120カ国・地域の絵本 を紹介する「世界の絵本展」もスタートさせております。この絵本展は、世界のさまざまな 地域の文化や生活をわかりやすく紹介しながら、互いの違いを多様性として自然な形で受け 止めていく機会ともなるものです。  日常生活のあらゆる場面で他者を思いやる心″を育みながら、現実の行動につなげてい く繰り返しの中に「人権文化の創造」の直道はあると、私は確信するものです。 「貧困」の撲滅へ協力が不可欠  第二は、「貧困撲滅」のための取り組みであります。じつに「貧困」こそ、テロや紛争を生 み出す大きな要因でもあるからです。  私どもはこれまで、グローバル化の中で広がる貧富の格差の是正と、絶対的貧困層をなく すための国際協力を、繰り返し訴えてきました。貧困は、多くの地球上の人々の尊厳を脅か している看過できない脅威″だからです。 2年前の提言でも、重債務貧困国に対する救 済措置で利用可能となる資金を、貧困横和や教育・保健・医療等の環境整備に充当させるこ となどを地球的規模で目指す「グローバル・マーシャルプラン」の実施を提案しました。  ユニセフ(国連児童基金)の「2001年 世界子供白書」では、債務救済の配当を子どもの 教育や健康のための資金に転用したウガンダの例を紹介し、「債務を子どもへの投資に変える ことが、貧困を終わらせるための鍵になる」と強調していますが、人間本位の視点に立った 貧困撲滅の努力を一致して進める必要があります。  昨年5月には第3回「国連後発開発途上国会議」が行われ、貧困問題などを乗り越えるた めの指針が盛り込まれた行動計画が採択されました。  7月のジェノバ・サミットの宣言でも、途上国支援に最大の焦点が当てられるなど、機運 も高まっております。  国連ミレニアム宣言の「2015年までに、1日の所得が1ドル以下の人口の比率を半減する」 との目標を達成するためにも、今一度、真剣に検討してみてはどうかと訴えたい。とくに、 国連の「人間の安全保障基金」=注3=の設置に積極的な役割を果たしてきた日本は、貧困 問題の解決のために強いリーダーシップを発揮すべきだと思います。  また、国連の機構上でも、アナン事務総長が提案しているような、世界の最貧諸国におけ る問題を担当する高等代表事務所の設置なども検討していくべきではないでしょうか。 ジュネーブ軍縮会議を運営改革  第三は、紛争悪化の制度的予防という面からの「軍縮の推進」です。  とくに近年は、テロとの関連で懸念されている、核兵器や化学兵器、生物兵器といった大 量破壊兵器の不拡散体制の確立と、徹底した軍縮努力が急務となっています。  その突破口を開くための一つの方策として、私が強く呼びかけたいのが「CD(ジュネーブ 軍縮会議)」の運営改革であります。  60年に設置された「10カ国軍縮委員会」を母体とするCDは、その後、名称や組織的な 変更を経ながら、唯一の多数国間軍縮交渉機関として、「核不拡散条約」「生物・毒素兵器禁 止条約」「化学兵器禁止条約」など、数々の重要な軍縮条約の成立に寄与してきました。しか し、96年の「包括的核実験禁止条約」以来、5年間にわたって何の成果も得られず、新たな 交渉のテーマさえ合意できない状態が続いています。  そこで私は、事態打開のために、CDの最大の特徴であり、現在の状況を招いた最大の原 因ともなった「全会一致ルール」の見直しを図るべきであると考えます。  この見直し案については、昨年8月、日本が「手続き事項は3分の2の賛成で決める」と いった一部多数決方式の導入を非公式に提案しております。多数決は安全保障の問題になじ まないというならば、WTO(世界貿易機関)で採用されている「コンセンサス・マイナス・ ワン」制度(当事者を除いた他のすべての加盟国で一致をみた場合は、その意思が尊重され る)という方式もありましょう。何らかの形で運営改革をしなければ、CDはその存在意義 すら危ぶまれる恐れがあると思います。  入り口で立ち止まるのではなく、まず交渉のテーマについて大筋の合意を得た上で、議論 を先に進め、細部をつめていくといった運営方法に切り変えることが生産的ではないか。 CDの伝統を大きく塗り替えることにつながるだけに、異論もあるかとは思いますが、軍縮 の推進を第一義として改革を真剣に検討すべき時が来ていると思います。 核テロ防止条約早期滞結めざせ  この軍縮という面で、とくに強調したいのが核軍縮への取り組みです。  9・11のテロ以来、バグウォッシュ会議のロートブラッド博士をはじめ、「テロリストによ る核兵器使用」を懸念する声が高まっています。IAEA(国際原子力機関)でも、核物質の 不正使用を防ぎ、核施設の破壊工作に対する確実な防御を行うことを求める決議が採択され ました。  国運では現在、「核テロ防止条約」が審議されていますが、早期の締結が図られるよう国際 世論を高めていく必要があります。  テロに限らず、核兵器の拡散を防ぎ、核軍縮を前進させることは、21世紀の人類にとって 死活的な課題です。  昨年12月、米ロ両国は、START1(第1次戦略兵器削減条約)に基づき、戦略核弾頭を 6000発に削減するなどの義務を履行しましたが、それ以降の核軍縮の具体的なスケジュール は明確になっていません。  2000年の「核不拡散条約」第6回再検討会議では、「全面廃絶に向けた核保有国の明確な 約束」という文言を盛り込んだ最終文書が全会一致で採択されました。しかし、具体的措置 や期限の設定といった点では十分な合意は得られていないのです。  同会議で、核兵器の「全面廃絶に向けた明確な約束」を核保有国が最終的に認めたのは、 非保有7カ国が主導する「新アジェンダ連合」とこれを支援するNGOの運動があったから こそですが、この流れを後退させないためには、民衆世論の包囲網″を更に強めながら、 核保有国に約束の誠実な履行を迫っていく必要があります。  SGIではこれまで、生命論の次元から核兵器を絶対悪″と指弾した戸田城聖第2代会長 の「原水爆禁止宣言」の精神を受け継ぎ、核の脅威展の世界巡回や、「アポリション2000」 運動への協力などを続け、核廃絶を求める民衆の連帯を広げてきました。  今後も「核兵器全面禁止条約」制定という目標を目指し、更なる行動を重ねていく所存で す。 「対人地雷」を地球上から廃絶  この核兵器の問題とともに言及しておきたいのが、「対人地雷」の問題です。  アフガニスタンにおける紛争でクローズアップされたように、多くの一般民衆、とくに子 どもたちの犠牲を生んでいる非人道的兵器の廃絶は、冷戦後の世界の焦点となっており、私 も97年の提言で全面禁止条約の制定を呼びかけました。  ICBL(地雷禁止国際キャンペーン)などのNGOの強い働きかけもあり、「対人地雷全面 禁止条約」は99年に発効しましたが、いまだ世界に1億1000万個の地雷が埋設され、2億 5000万個もの地雷が保有されているといいます。  この兵器の最大の問題は、紛争中だけでなく、紛争が終わった後もなお、埋設された地雷 によって日常的に人々の生命と生活が脅かされているという点にある。条約の発効以降、地 雷や不発弾によって犠牲者が出た国の半数以上は、戦争状態にはない国だったという調査結 果もあります。  この条約は、使用だけでなく、貯蔵・生産・移譲も禁止し、廃棄を義務づけた画期的な条 約ですが、すべての国がこれに参加することなくして、地雷による犠牲者を絶つことはでき ません。  私は、21世紀に「戦争のない世界」を築くための第一歩として、国際社会が一致し、この 非人道的な兵器の完全廃棄、とくに、そこに至るステップとしての輸出禁止を早急に実現す べきだと強く訴えたい。  そして、地雷除去と犠牲者支援のための協力体制をつくりあげることが、「人道の世紀」へ の挑戦となるのではないでしょうか。 国連環境高等弁務官 地球緑化基金創設へ リオの「地球サミット」から10年  続いて、21世紀の地球社会を考える上で避けて通れない「環境問題」について論じたいと 思います。  本年は、ブラジル・リオデジャネイロで行われた「地球サミット」から10周年にあたり、 8月に南アフリカで「WSSD(持続可能な開発に関する世界サミット)」が開催されることに なっています。  92年、冷戦終結と地球環境問題への関心の高まりの中で行われた地球サミットは、183カ 国・地域の代表が参加した空前の規模のもので、気候変動枠組み条約や生物多様性条約の著 名と、行動計画「アジェンダ21」の採択という多くの成果を上げた会議でした。  ガリ前国連事務総長が「認識論的転換」と評したほど、人々の認識を改める上で大きな意 義があったといえます。  しかしその後、対策は遅々として進まず、地球環境の悪化に歯止めがかからない現状があ る。地球温暖化の防止を例にとってみても、条約採択から9年後の昨年11月に、ようやく 温室効果ガスの削減義務を定めた「京都議定書」=注4=の運用ルールの合意に達したとい う状況であります。  その意味で、本年行われるWSSDは、「認識論的転換」から一歩進んで「行動的転換」を 果たす機会にしなければなりません。  会議では過去10年間における対策の進捗状況が検証されますが、今一度、新しい決意と 強い覚悟をもって、抜本的な対策を打ち立て、未来の人類のために行動を開始する出発点ほ すべきだと思います。 環境諸条約の事務局の統合を  そこで私は、国際協力の枠組みを強化する観点から、WSSDの場において、@「国連環境 高等弁務官」と同事務所の新設A環境諸条約の事務局の段階的な統合化と、それに伴う「地 球緑化基金」の設置B「再生可能エネルギー促進条約」の締結、の3点を検討してみてはど うかと提案したい。  第一は機構改革に関わるものです。  現在、国連では、UNEP(国連環境計画)以外にも、UNDP(国連開発計画)やWHO(世 界保健機関)など数多くの機関が、環境関連の活動を実施しています。  しかし、それぞれが別個に活動を進めている現状があり、トータル・プランを構築しなが ら、情報の交換や連携の強化を図ることが強く求められます。  そこで、人権分野に人権高等弁務官が、難民分野に難民高等弁務官があるように、環境分 野においても同様の職責と事務所を新設し、関係諸機関の活動を調整しながら、地球環境問 題への強いイ二シアチブを発揮する体制を整えることが重要だと思うのです。  この「環境高等弁務官」には、事務次長クラスの権限を与え、必要に応じて国際的な勧告 を行ったり、賢人会議や科学者会議などを招集して未来ビジョンを発表するなど、地球環境 問題の解決のための取り組みをリードしていく役割をもたせてはどうでしょうか。  第二の案は、環境諸条約の事務局が別個に設置されている状況を解消することで、相互の 活動の連携を強化するだけでなく、事務作業の合理化を通じて運営コストを削減できるメリ ットがあります。  また、条約加盟国が報告義務を行うための費用も削減できるはずであり、それらの余剰資 金を原資に、生態系の保護や、新たに森林を増やすための植樹などに活用する「地球緑化基 金」として活用していくシステムをつくるべきだと思うのです。  SGIでも、ブラジルSGIの「アマゾン自然環境研究センター」で熱帯雨林再生研究プロジ ェクトを行ってきた実績などがあり、そうした環境問題の解決に、できる限り協力していき たいと思います。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 語句の解説  注3 人間の安全保障基金  1999年3月、国連に設置された基金。貧困や環境問題、難民流出など、国境を超えた広 がりをもつ人間の生命や尊厳に対する脅威(きょうい)″に対し、国際機関が実施するプ ロジェクトを支援することを目的としている。  注4 京都議定書  97年に京都で行われた、「気候変動枠組み条約」の第3回締約国会議で採択された文書。 先進国に温室効果ガスの削減を義務づけたもので、その運用ルールが昨年の第7回会議で最 終合意をみた。アメリカと発展途上国の参加が、今後の課題となっている。