日中国交正常化30周年に寄せて アジアの未来と日本 下 池田大作 創価学会名誉会長  「二十一世紀の青年よ、二十世紀の青年以上に奮闘せよ!」 周恩来総理の夫人であり、戦友であったケ穎超夫人先生の忘れ得ぬ呼びかけである。  新世紀の日中友好の進展は、青年と青年の熱情ある交流に託す以外にない。 ▲ 時代を動かす力 中国作家協会の主席・巴金先生と最初にお会いしたのは、一九八〇年の四月、 静岡の熱海である。私は女子中学生の代表と共に、一行を歓迎した。 春たけなわの庭に、さわやかな乙女たちの歌声が響くと、ペンの闘士顔に笑みが広 がった。 「本当にありがとう。青年は人類の希望です。私たちが中日友好のために働いている のも皆さん方、青年のためなのです。」青年が一切の焦点である。  友好の「目的」も青年、友好の「主役」もまた青年である。  青年を励ます「言論」には、時代を動かす力がある。  青年を鍛える「教育」には、時代を創りゆく力がある。  この折、巴金先生は私に、記念の一筆を認めてくださった。  「人民の友好事業のために奮闘することは、人生の最も美しいことである。」  もはや「軍事的競争」の時代ではない。「政治的・経済的競争」の時代でもない。 「人道的競争」の時代が到来しつつある。 人間として、アジア市民、世界市民として、どれだけの友誼と信用を勝ち得ていくこ とが出来るか。その一点に、日本の未来はかかっていよう。  フィリピン大学に国際交流のための「平和の家」を設立したアブエバ博士(当時・ 総長)が、日本の青年を前に語られた言葉が、胸奥から離れない。  「私の両親は日本兵に殺されました。しかし、私を含め七人の子どもは、皆、日本 人を恨んではおりません。フィリピン人も日本人も、平和を愛する気持ちは同じだと 信じます」「信じます」の一言に、私は、博士の祈りにも似た悲痛な叫びを聞き取る 思いであった。 ▲ 友好の対話を アジアの国々から、心より信頼される「平和」と「人道」の国―ここに、日 本が進むべき根本の大道がある。 「中日韓・国民交流年」である本年は、最も近い隣人たちと、さまざまな友好の対話 を活性化しゆく好機としたい。  思えば、あの大航海時代、静岡の駿府は、ヨーロッパからもアジアからも、幾多の 使節が往来する国際外交の舞台となった。  また明治維新の際、財政困難な中で、静岡では学問所を創設し、人材の育成に焦点 を当てた。教育力、文化力の拡大で、新時代の夜明けを開いたのである。  さらに戦後の日本社会を、創造的革新の気概で牽引してきたベンチャー企業の一大 震源地も、浜松をはじめ静岡県であった。 ▲ 進む地球一体化 近年、富士宮にある私どもの富士美術館では、静岡新聞社の御協力をいただ き、「敦煌展」「中国歴代女性像」「現代中国の美術展」等を積み重ねてきた。新世 紀の中国を担う青年芸術家の紹介にも力を入れている。  先日も、三億七千万の若人が所属中華全国青年連合会の代表団を、私は心から歓迎 した。  政治や経済の同盟は強固に見えて、時代の荒波に流されやすい、迂遠なようでも、 文化・教育の友好は、揺るぎ無き平和と創造もネットワークを広げる。  伊豆育ちの学科で、シルクロードの旅人でも会った井上靖先生から、四季折々に頂 いた書間集の一分が、思い越される。  「国と国との関係は、政治の形や国柄とは別に、人間一人と一人の友情の交流から 出発しなければならぬ」  地球一体化の進行は、予想を上回るスピードである。  人間教育と青年交流を高らかに掲げながら、二十一世紀の「平和の大航海」へ船出 しゆく希望の朝が、今、始まっている。 静岡新聞 平成14年2月3日(日)付