2006.2.11SP ―――――――――――――――――――――――   「生老病死と人生」を語る         第11回 豊かに老いるために〔中〕 ――――――――――――――――――――――― ◆◆◆ 不老不死とは新鮮な生命力     ── 〔香港の芸術の母〕「老いてますます意気盛んなり」 ◆◆ 燃える求道心こそ若さの源泉 【池田名誉会長】 昨年でしたか、「寿命を延ばすタンパク質」が、大きな話 題になりましたね。 【道川】 ええ。「クロトー」と呼ばれるタンパク質です。このタンパク質を、 遺伝子操作によって、通常より多く作るようになったマウスは、老化が遅くな り、平均で寿命が20?30%延びたと、日米の研究チームが報告しています。 【成見】 「クロトー」には、インスリンの作用を抑え、エネルギー代謝を抑制 する作用があります。それによって老化の最大の原因と考えられる活性酸素の 発生が少なくなり、寿命が延びたのではないでしょうか。 【稲光】 人間でいえば、120歳に相当するマウスも出たようです。このタン パク質を作る遺伝子は人間にもありますから、将来、「不老長寿の薬」を作る ことが可能になるかもしれません。 【成見】 それはそれとして、地道に健康な長寿を目指すのであれば、過度の活 性酸素を出さない工夫は、もちろん大事です。過食や多量の飲酒を慎む、野菜 を多く取る、 極度に日光に当たらない、過度のストレスを避ける、禁煙などを心掛けたいも のです。 【名誉会長】 古来、人類は「不老長寿」の薬を探し続けてきました。  御書に、「不老不死」の薬を求めた、中国・前漢(ぜんかん)の武帝(ぶて い)に仕えた東方朔(とうほうさく)という人物の名が出てきます(178ペ ージ)。  同じく御書に「蓬莱山(ほうらいさん)」(1194ページ)と出てくるの も、「不老不死」の秘薬があるとされ,た伝説上の霊山(れいざん)です。  その蓬莱山に多くの宝玉(ほうぎょく)があるごとく、法華経の行者のいる 場所にこそ、無量無辺の功徳が集まると説かれています。 ◆長寿者の特徴 【稲光】 昨年、115歳で世界最高齢だったオランダの女性が、天寿を全うし ました。 【名誉会長】 そうでしたね。何か長寿の秘訣があったのでしょうか。 【稲光】 健康のため、毎日、ニシンの酢漬けを食べていたそうです。 【名誉会長】 ニシンは、戸田先生もお好きでした。どういう効果があるのでし ょう。 【道川】 魚の油には、認知症(痴呆症)の大きな原因であるアルツハイマー病 を起こす物質を脳内にたまりにくくし、その物質によって起こる脳内の炎症を 防ぐ働きがあるという研究者もいます。また、魚の油には、動脈硬化を抑えた りする脂肪酸(しぼうさん)が含まれています。 【名誉会長】 なるほど。「運動」という面では、長寿の方々に特徴的なことは ありますか。 【成見】 長寿者が多い地域を調べてみると、ほとんどといっていいほど山や坂 が多いところです。坂道を歩くことが、自然と健康の維持・増進につながって いるのではないでしょうか。 【道川】 坂道を上る際、足腰にかかる負担は平地の比ではありません。若いこ ろから、そうした生活をしていれば、肺や心臓が丈夫になり、体が若々しく保 たれると思います。 【稲光】 「老化は足から」ともいわれます。19世紀半ばのロンドンで繁盛し ていた仕立屋さんは、気の毒に短命だったと聞いたことがあります。仕事に追 われ、座ってばかりで、動く時間がない ── それが理由でした。 【名誉会長】 人生は歩いた人が勝ってますね。なかんずく、広宣流布のために 歩く足音は、何ものにも勝る勝利、勝利の希望の響きです。 ◆「音読」は脳を活性化 【名誉会長】 老化を予防するということで、最近、「音読」がブームだそうで すね。 【成見】 そうなんです。活字を目で追って声に出すことで、脳は広範囲に活性 化します。 【稲光】 ですから、勤行・唱題は、生命を磨くとともに、素晴らしい脳の訓練 になっていると思います。 【名誉会長】 名文を声に出して読めば、生命も躍動し、脳も活性化しますね。 特に御書の音読、聖教新聞の朗読は、心にさわやかな感動を広げます。希望と 勇気にあふれる声で、お子さんなどにも読み聞かせてあげたいものです。  「頭脳というものは、絶え間ない、節度ある運動がないと錆つく道具である」 (加藤節子訳『我が生涯の記』水声社)と、フランスの作家ジョルジュ・サン ドは言いました。  声も、頭脳を錆びつかせない潤滑油なのです。 ◆肉体は衰(おとろ)えても脳の働きは維持 【成見】 近年、高齢者の脳の中でも神経細胞が新しく生まれることが分かって きました。 【名誉会長】 それは重大なニュースです(笑い)。 【道川】 脳の神経細胞は、20歳を過ぎると、1日に約10万個の割合で減る 一方といわれていました。ところが、脳の記憶に関係する「海馬(かいば)」 という領域では、高齢になっても神経細胞が新しく生まれることが確認されて います。 【成見】 肉体が老化しても、脳の働きはまだまだ維持されうるということでし ょう。 【名誉会長】 「創造性」や「知恵」は、年老いても衰えることがありませんね。 むしろ、ますます豊かになっていくことを、多くの人々が証明しているのでは ないでしょうか。 ◆◆ 脳細胞は高齢でも新しく生まれる ◆老いとの戦いは臆病との戦い 【名誉会長】 香港の芸術の母・方召★(鹿/吝)(ほうしょうりん)さんは、9 2歳の今も、かくしゃくと筆を執り、新たな創造を続けておられます。今年も 新春を寿(ことほ)ぐ、見事なる書を頂戴しました。  「鶴寿(かくじゅ)千年」「平心静気(へいしんせいき)」「松鶴延寿(し ょうかくえんじゅ)」の3点です。いずれも若さあふれる躍動の筆です。 【稲光】 若くして夫に先立たれ、8人のお子さんを立派に育て上げながら、創 作活動を続けてこられた女性ですね。 【名誉会長】 その通りです。今回、頂いた書には、「老当益壮(老いてますま す意気盛んなり)」との印章が押されていま した。  「老いとの戦い」 ── それは、新しい挑戦を避ける「臆病との戦い」とい ってよい。「もう、これでいいだろう」という妥協。若い人を育てようとしな いエゴ。過去への執着。そんな心の隙間に「老い」は忍び寄ってきます。最後 まで戦い続ける人が、一番尊く、一番若い。その人こそが、不老の生命であり、 人生の勝利者なのです。  思えば、あの文豪ゲーテが、畢生(ひっせい)の傑作「ファウスト」の第2 部を完成させたのは、80歳を超えてでした。 【成見】 科学の分野でも、ニュートンは82歳ごろから主著「プリンキピア」 の改訂に着手するなど、学問に対する情熱は、生涯、衰えなかったといいます。 【道川】 世界的なチェロ奏者カザルスは、1973年に96歳で亡くなるまで、 驚異的な若々しさで芸術と平和に貢献しましたね。 ◆「挑戦また挑戦」の総仕上げを! 【名誉会長】 私たち創価の父・牧口先生も、人生の総仕上げを「前進また前進!」 「挑戦また挑戦!」の歴史で飾っておられます。  仏法に巡りあったのは、57歳の時です。59歳で、創価教育学会を創立さ れました。70代に入ってからも、はつらつと遠い九州へも汽車に揺られて、 個人指導や折伏に訪れておられます。「我々、青年は!」 ── これが、牧口 先生の口癖でした。 【稲光】 アメリカの現代女性画家モーゼスも75歳から本格的に絵を始め、1 00歳を超えても、キャンバスに向かったそうです。 【名誉会長】 牧口先生は、亡くなられる約1カ月前、獄中から「カントの哲学 を精読している」と、はがきをつづっておられます。この燃えるような求道心、 挑戦の心こそ、若さの源泉でしょう。 【成見】 そこで、池田先生にお伺いしたいのですが、仏法で説く「不老不死」 とは、どういう意義になるのでしょうか。 【名誉会長】 「不老不死」といっても、もちろん、「年を取らない」とか「死 なない」ということではありません。それは「境涯」のことであり、「生命力」 のことです。  法華経には「若し人病(やまい)有らんに、是の経を聞くことを得ば、病は 即ち消滅して、不老不死ならん」(「薬王品」)とあります。また御聖訓には 「法華経の功力(くりき)を思ひやり候へば不老不死・目前(もくぜん)にあ り」(御書1125ページ)と仰せです。  つまり、妙法を信受していくならば、いかなる病にも負けず、年を取っても 若女しい生命力で前進し、三世永遠にわたって崩れることのない幸福境涯を築 き上げることができるとの御約束です。これは、決して特別なことではありま せん。常に新鮮な息吹で、快活に、さっそうと活躍されている、わが大切な大 切な「多宝会」(高齢者の集い)の皆さま方の姿こそ、その模範です。 ◆夕日のごとく荘厳に悠然と 【成見】 一般的には、「老い」に対してマイナスイメージが根強くあります。 【稲光】 社会保障制度など「高齢社会」への不安も、反映されていると思いま す。 【名誉会長】 一面から言えば、「老い」は嫌われる宿命をもっています。なぜ なら、その延長線上に、避けられない「死」を想起(そうき)させるからです。 【成見】 「老い」は必ず「死」に至るゆえに、人は「老い」を忌み嫌うという ことですね。 ◆死を忘れた文明 【名誉会長】 そうです。しかし人生の各時期には、それぞれ、かけがえのない 固有の価値があるものです。  では、本来、「老い」の意義とは何か ── 。それは、若かりし日を思い、 感傷にひたる時期などではありません。最も荘厳にして悠然と光を放ちゆく深 紅(しんく)の夕日のごとく、最も生の充実を図るべき、人生の総仕上げの時 ではないでしょうか。 そこには、暗く佗(わび)しい「老い」のイメージはありません。「はればれ とした老人の顔には、なんとも言えない曙(あけぼの)のようなところがある」 (辻昶訳『レ・ミゼラブル3』潮出版社)とは、文豪ユゴーの至言(しげん) です。  しかし残念なことに、「死」という根本問題から目を背(そむ)けた現代社 会は、そうした「老い」のもつ黄金の価値まで見失ってしまったように感じま す。 【稲光】 池田先生が、米・ハーバード大学の不滅の講演で指摘された「死を忘 れた文明」ですね。 【道川】 近年の医療の発展により、病院の数は増え、治療技術は発達し、人々 の病院志向は強まりました。その結果、看取(みと)りの現場が、家庭から病 院へと移ってしまいました。医師や医学への依存が大きくなり、死が我々の日 常生活から消えてしまったことは、事実です。 【名誉会長】 御聖訓に「先(まず)臨終の事を習うて後に他事を習うべし」(御 書1404ページ)とあるように、死から目をそらすのではなく、死を真正面 から見つめていかねばなりません。そうすれば、必然的に「老」も人生に正し く位置付けられる。「老い」の真の価値も輝いていくのではないでしょうか。 【稲光】 そのためにも、確固たる生命観、生死観の確立が必要ですね。 【名誉会長】 そうです。仏法の永遠の生命観から見るならば、「死」は新たな 「生」への出発です。御書に、妙法は「生死の長夜を照す大燈(だいとう)」 (991ページ)とあります。妙法という永遠の法を手にした人に、死の恐怖 はない。不安もないし、動揺もない。「生も歓喜!死も歓喜!」と、生命の旅 路を自在に遊戯(ゆうげ)していける。「生老病死」の苦悩の人生を「常楽我 浄(じょうらくがじょう)」の歓喜の人生へと転換する、根本の方途を説き明 かしたのが、この仏法なのです。 ◆◆◆ 「多宝会」は長寿社会の鑑(かがみ)     ── 豊かな智慧で家族を結び、地域を結ぶ ◆◆ 揺らぐ「老いの価値」を復権 ◆「おばあちゃん効果」「長老効果」 【名誉会長】 話は元に戻りますが、具体的に、老いて盛んになる能力には、ど んなものがあるでしょうか。 【道川】 一般に、記憶力、集中力などは衰えますが、豊富な経験や知識に基づ いた判断力や処理能力は、年を重ねるほど増していくと思います。 【名誉会長】 いわゆる「老いの知恵」と呼ばれるものですね。  そういえば、近年、アメリカの人類学者らが「おばあちゃん効果」という仮 説を発表しています。 【稲光】 その通りです。人類は約3万年前に年配者の割合が飛躍的に伸び、こ れが進化のカギになった。その際、大きな役割を果たしたのが、「おばあちゃ ん」 ── 祖父母の世代だというのです。 【名誉会長】 子育てを終えた「祖父母」らが孫の世代の世話をすることで、よ り多くの知識や技術が若い世代に伝えられ、その一族は繁栄したのではないか、 という推論でしたね。 【成見】 「おじいちゃん」も負けていません(笑い)。「長老効果(ちょうろ うこうか)」という、男性の長寿を説明する学説もあります。これは、長老と して、豊富な知識と経験で一族を統一し、それを若者に伝承するために長生き するのではないか、というものです。 ◆「棄老国(きろうこく)」 【名誉会長】 ともあれ、功労ある年配者を大切にしていくことは、永遠の繁栄 への道です。  有名な御聖訓に「周の文王(ぶんおう)は、老いた者を大切に養って戦に勝 ち、その子孫は37代・800年の間、末裔(まつえい)には悪政の時代もあ ったが、根本である文王の功によって長く栄えることができた」(同1250 ページ、通解)とあります。 【成見】 御書には「おば捨て」で知られる「棄老国(きろうこく)」という伝 説上の国も出ていますね(1514ページ)。 【名誉会長】 その通りです。口減らしのために老人を捨てていた国です。  仏典によると、この国が悪習慣を廃止するようになったのは、一人の老父(ろ うふ)の知恵がきっかけだったというのです。  実は、その国のある大臣が、どうしても老父を捨てることなどできず、国法 に反して、こっそり養っていました。  ある時、一国に危機が訪れる。だれも、どうしていいか分からない。その時、 大臣は、身を隠していた老父の知恵を借りて、国難を救っていくのです。そこ で、国王も、それまでの国法を廃し、老人を大切にするようになったといいま す。  釈尊は、高齢者を大切にする人は、自らが「寿命」と「美しさ」と「楽しみ」 と「力」を増していくと説いています。「老人を尊敬する社会」こそ「人間を 尊敬する社会」であり、「生きる喜びに満ちた社会」になるのではないでしょ うか。 【稲光】 円熟した人格も、高齢者の真価だと思います。 ◆◆ 老人を尊敬する社会は生き生きと栄える!! ◆「上行菩薩と申せし老人」 【名誉会長】 そうですね。御書には「地涌の菩薩」を率いる指導者のことを、 「上行菩薩と申せし老人」(1458ページ)と表現されています。 これは、法華経に「百歳人(にん)」(「従地涌出品(じゅうじゆじゅっぽん)」) として例えられた「上行菩薩」を指したものです。法華経では、その荘厳なま での風格を、釈尊を25歳として対比した上で、「百歳人」という言葉で表現 しています。  揺るぎない信念。何ものをも恐れぬ勇気。巧みなる対話の力。決定(けつじ ょう)した忍耐の心。端正(たんせい)にして威徳ある容貌 ── この上ない 高潔な徳が馥郁(ふくいく)と薫っている。  ホイットマンは謳っています。「若い者は美しい ── しかも老いたる者は 若い者より更に美しい」(白鳥省吾訳『ホイットマン詩集』弥生書房)と。  まさに、幾春秋(いくしゅんじゅう)を越えた年配の方々が、人生の年輪を 光らせている姿ほど神々しく、すがすがしいものはないでしょう。 【道川】 昔は、どの地域にも「長老」と呼ばれる年配者がいました。彼らが「知 恵の宝庫」として、伝統的に家族や共同体における人間関係の調節機能を担(に な)っていたのだと思います。 【名誉会長】 良き相談相手ということですね。学会の多宝会の友も、家族はも ちろん、地域や広布の最前線で良き相談役として信頼されています。  大聖人は、そうした"地域の柱"の存在を、「年齢を重ねた上に、心が賢く、 身も壮健で、社会の人々からも人格者として尊敬を集めていた」(御書133 3ページ、通解)と讃えられています。  佐渡流罪の時、大聖人をお守りしたのも、そういう"多宝"の先達(せんだ つ)です。 【稲光】 多宝会の偉大な点は、信仰の世界で磨いた智慧や力を、友のため、地 域のため、社会のため、あとに続く人材のために生かし切っている点ですね。 ◆「長寿にして衆生を度(ど)せん」 【名誉会長】 法華経に「長寿にして衆生を度せん」(「分別功徳品(ふんべつ くどくほん)」)とあります。これは、妙法を持った人が起こすべき誓願(せ いがん)です。  妙法によって、自分のためだけではなく、自らの経験や智慧を生かして、存 分に人々に尽くしていく、励ましていく ── そのために、長生きしようとい う菩薩の生き方こそが大切なのです。まさに多宝会こそ高齢社会の模範の集い ではないでしょうか。 【道川】 おっしゃる通り、これからの社会は「老い」を一つの個性と考え、そ の価値を生かす工夫が求められると思います。  現在、日本には65歳以上の高齢者が約2500万人いますが、そのうち要 介護者は13?16%で、ほとんどの人は、どこかに病気があっても、元気で意 欲もあり、経験に基づいた能力があります。この元気な高齢者のエネルギーを、 社会や地域の発展に結び付けることができれば、未来は明るくなると思います。 【成見】 社会の高齢化は今後も、ますます進展します。その意味から現在、一 般に「65歳以上」とされている高齢者の定義を、「75歳以上にすべきだ」 という声も上がっています。かつては高齢だと思われていた年齢でも、まだま だ若いと、社会的に認識されるようになってきたのです。 ◆多宝会から「老年ルネサンス」を! 【名誉会長】 当然でしょうね。戦後のベビーブーム期に生まれた「団塊(だん かい)の世代」約680万人が、今後10年ほどの間に、60代から70代へ と年齢を重ねていきます。戦後世代をリードしてきたこの世代が元気に活躍し 続けることで、高齢者の定義はもちろん、社会の価値観に大きな影響を与えて いくことでしょう。  その意味でも、"長寿社会の鑑(かがみ)"である学会の多宝会には、揺ら いでいる「老いの価値」を厳然と復権させゆく「老年ルネサンス」の崇高(す うこう)な使命があるのです。 ************************************************************ 池田名誉会長 稲光白樺会総主事 成見創価青年医学者会議室長 道川総愛知副ドクター部長