2006.2.25SP  「生老病死と人生」を語る 第12回 豊かに老いるために〔下〕 ◆◆◆ 学会活動は最高の健康法   〔活字に親しむ〕〔話し相手がいる〕〔生きがいがある〕    ── 友のため社会のため 歩けば脳も若返る!! 【池田名誉会長】 「つねに前へ、前へと進もうとする。たえず学びに学んで いる」(エッカーマン著、山下肇訳『ゲーテとの対話』下巻、岩波文庫) ── これは、80歳を前にしたゲーテの姿です。彼は「永遠の青春の人」として、 後輩に限りない希望を贈り続けていきました。私たちも、そうありたいもので す。 【稲光】 はい。少々、物忘れがあっても(笑い)、「年は・わか(若)うなり」 (御書1135ページ)との御聖訓通りに、若々しく前進していきたいと思い ます。 【名誉会長】 そうですね。「物忘れ」は、やはり老化現象でしょうか(笑い)。 【稲光】 ええ。40代を過ぎると、大抵の人は記憶力が低下します。例えば、 「きのうの朝ご飯は何だったかな」と、過去の体験の一部を忘れてしまうので す。 【道川】 その程度の、いわゆる「物忘れ」の場合、一般的に本人の自覚症状が あるうちは大丈夫です。ただし、「さっき朝ご飯を食べたこと」自体を忘れて しまうようだと、アルツハイマー病のような「認知症」(にんちしょう=痴呆 症)を考えなくてはなりません。また、忘れていることについて、本人に深刻 味(しんこくみ)がないのも、この病の特徴です。 【成見】 食べたのに「食べてない」と言い張ったり、作り話が多くなったりす る。それをほっておくと、日常生活に支障を来すようになります。 【名誉会長】 なぜ、認知症が起こるのでしょうか。 【道川】 ひと言で言えば、認知症は、さまざまな理由から、脳の中の神経細胞 自体に障害が起こり、細胞間のネットワーク(連絡網)が寸断され、判断や記 憶、認識といった知的機能が低下してくる現象です。 【成見】 現在、認知症の患者さんは160万人といわれ、20年後には、30 0万人になるだろうと予想されています。 【名誉会長】 認知症の原因は何ですか。 【稲光】 日本では従来から「脳血管性認知症」が多いといわれてきました。こ れは、脳梗塞(のうこうそく)や脳出血に伴い、脳の血管が詰まったりして、 脳の働きに障害を来し、起こる病気です。 【道川】 最近では、「アルツハイマー病」の人が次第に増加しており、認知症 の主な原因になりつつあります。原因としては、食生活の欧米化や診断技術の 向上などが考えられます。  一方、脳血管性認知症は、生活習慣病の予防が進んでいることもあり、減っ てきています。 ◆◆ 認知症 ── こんな症状に注意    ・物忘れが悪化    ・以前の関心事に興味を失う    ・感情の減退 ◆◆ 介護のポイント    ・一人で悩まない    ・家族全員で役割を分担 ◆アルツハイマー 【名誉会長】 「アルツハイマー病」とは、どのような病気ですか。 【道川】 脳に、あるタンパク質が沈着し、神経細胞が障害を受け、死滅するこ とで起こる認知症のことで、約100年前にドイツの精神科医アルツハイマー 博士が発表した病気です。近年の研究から、さらに詳しい原因などが、かなり 分かってきました。 【名誉会長】 そのタンパク質は、だれの脳にもたまるのでしょうか。 【道川】 40歳後半を過ぎると、だれでも徐々に沈着していくもので、脳の一 種の老化現象といえます。しかし、このタンパク質がたまったからといって、 すぐに発症するわけではありません。実際には、さらに20年以上の時間を要 します。また、だれもが認知症になるわけではありません。 【名誉会長】 分かりました。ともあれ、大事なことは周囲が「おかしい」と思 う兆候(ちょうこう)が表れた時に、早めに医師の診察を受けさせることです ね。 【成見】 そうです。物忘れの原因としては、うつ病や代謝性疾患、脳外科的疾 患などの場合もあります。また、早期発見によって、症状を和らげる治療が受 けられ、家族は適切な対応の準備ができるケースもあります。 【道川】 置き忘れや、しまい忘れ、物や人の名前が思い出せないといったこと は、だれでも経験するもので心配はいりませんが、それがどんどん悪化する場 合は注意が必要です。 【稲光】 時間や場所、慣れた道や季節まで分からなくなる場合もあります。 【名誉会長】 それは、大変ですね。 【成見】 好きなテレビ番組を見なくなるなど、本人の関心と興味が以前と変わ ってくるのも特徴です。 【道川】 さらに進行すると、感情や意欲の減退、加えて幻覚や妄想などの精神 症状、俳徊(はいかい)や暴力行為が表れることもあり、これらが介護を困難 にしています。 ◆『恍惚(こうこつ)の人』 【稲光】 この認知症を先駆的に扱った小説に、昭和47年の大ベストセラー『恍 惚の人』がありました。池田先生ともお会いされている有吉佐和子さんの名作 です。 【名誉会長】 有吉さんとの思い出は、幾重にもあります。語らいも、8回、重 ねました。あれだけの大作家でありながら、気取ったそぶりが、どこにもない。 それでいて、「とことん『人間』を探求する」文学者の真髄の魂が、光ってい ました。 【成見】 中国の周恩来(しゅうおんらい)総理から、池田先生への伝言を託さ れたのも、有吉さんですね。 【名誉会長】 その通りです。昭和41年の5月のことでした。それは、「周(し ゅう)総理から、伝言を預かってまいりました。『将来、池田会長に、ぜひ中 国においでいただきたい。ご招待申し上けます』と伝えてください、とのこと でした」との重大なメッセージでした。  まだ53歳という若さで、急逝(きゅうせい)されたことが、残念でなりま せん。しかし、この偉大な母の志を継がれて、愛娘(まなむすめ)の玉青(た まお)さんも、作家として素晴らしいご活躍をされています。 【稲光】 この『恍惚の人』には、認知症になった老父を介護する長男夫妻の葛 藤(かっとう)が、ありありと描かれています。献身的に舅の介護に当たる妻 とは反対に、夫は実父の姿に自分の将来を重ね合わせ、介護にかかわろうとし ません。 【道川】 それは、自分も同じようになるかもしれないという恐怖からではない でしょうか。老いを避け、死から目を背(そむ)ける現代人を象徴しています。 【名誉会長】 この小説が発表された半年後に、私は京都で有吉さんとお会いし ました。その時、有吉さんは語っておられた。  「人間が『老いる』ということは、厳粛ですね」「『老い』の苦しみには、 資本主義もなければ、社会主義もありません。資本家だろうが、労働者だろう が、関係なく、み?んな年をとっちゃうんですから!」  そして、「私は作家として、『これは避けては通れない』と思ったんです」 と、きっぱりと言われていました。  鋭い先見(せんけん)でしたね。今、高齢社会を迎え、その言葉通りになり ました。死とは何か、老(おい)とは何か、そして、人間は、どう生きるべき か ── 。有吉さんが真剣に問い掛けたテーマは、ますます重要になっていま す。 ◆牧口先生も義母(ぎぼ)を介護 【名誉会長】 実は、牧口先生も同居していた寝たきりの義母を介護されていま した。 【成見】 初めて伺う話です。 【名誉会長】 牧口先生は、老いたる義母を自ら背負って、おふろ場へ連れて行 き、入浴の手伝いもされたといいます。  道川さんは、身近な介護の経験はありますか。 【道川】 私が医師になりたてのころ、祖母がアルツハイマー病になりました。 約3年間、母が自宅で介護をしました。 【稲光】 お幾つぐらいでしたか。 【道川】 祖母が80代、母が50代でした。母は仕事をもっていたため、昼間、 家を留守にしなければならなかったので、心配を抱えながらの毎日だったと思 います。 【名誉会長】 そうしたご苦労も、今の道川さんの尊い研究に生かされているの ですね。  介護で大事なことは、決して一人で悩まないことです。いろいろな人に相談 に乗ってもらうことが、大切ですね。 【稲光】 介護には、家族の理解、周囲の協力が、不可欠です。全員で役割分担 を明確にすることです。  特に男性には、奥さんやお母さんのご苦労を理解し、協力していただきたい と思います。"自分は無関係"と考えるのではなく、「お疲れさま」「ありが とう」と、現実に声に出して、ねぎらい、元気づけてほしいものです。 【名誉会長】 日蓮大聖人は、高齢の姑(しゅうとめ)を介護した富木尼御前(と きあまごぜん)を讃えられ、ねぎらわれています。  お手紙に、「夫の富木殿は『妻が母を手厚く看病してくれたことのうれしさ は、いつの世までも忘れられない』と喜ばれていましたよ」(御書975ペー ジ、通解)と書き記してくださっています。  この一言は、尼御前にどれほど深く染みわたっていったことでしょうか。 【成見】 家庭での介護時間が長い時や、俳徊など問題行動が大きい時は、「介 護支援センター」など、専門機関にぜひ相談してください。また、デイケア(心 身に障害のある高齢者を昼間だけ預かるサービス)やショートステイ(介護施 設などへの数日間の入所)も利用できます。遠慮する必要は、全くありません。 【道川】 わが家では、幸い、祖母は外を俳徊するようなことはありませんでし たが、夕方になると自宅にいるのに「家に帰る」と言い出したり、押し入れに 隠れてしまい、皆で捜したりしたことがありました。また自分で物をどこかに しまっておいて、「あれが、なくなった」と訴えたり……。  こんなこともありました。祖母が、庭の雑草を「おいしそうな野菜だから食 べたい」と母に言ったのです。 【稲光】 お母さまは、どう対応されましたか。 【道川】 「そんなもの食べられませんよ」と何度も説得したそうですが、納得 しなかったため、祖母の言う通りに、雑草をゆでて、一口、食べさせてあげま した。すると、苦くて固く食べられなかった。以来、「おいしそうな野菜」と 言わなくなりました。 【名誉会長】 「否定よりも理解」「説得よりも納得」が大切ですね。「自分は 大切にされている」「自分のことを分かってくれている」という安心感は、一 見、感じていないようでも、伝わっていることが多いものです。それが、気持 ちを安定させるのではないでしょうか。 ◆生活環境や習慣を急に変えない 【稲光】 そう思います。私にも、ヒヤッとした経験があります。昨年夏、92 歳になる母が脱水症状のため入院しました。 【成見】 高齢者の方は、入院を境に認知症が表れたり、進んだりすることもあ るので、心配だったでしょう。 【稲光】 ええ。ですから入院中は、なるべく刺激を与えようと、話し掛けまし た。  退院して2日目。私は、介護保険を使い、母のヘッドを介護用のいいベッド に替えました。母の部屋も明るくすれば気分転換になるかと、写真も壁に張っ たのです。  ところがその晩、母の部屋で団欒(だんらん)し終えた後、母が「そろそろ 休む時間だね。隣の私の部屋に連れていってよ」と言ったのです。 【名誉会長】 年を取ると、生活環境や習慣を急に変えてはいけないと聞いたこ とがありますが。 【稲光】 そうです。私としては、それほど大きな変化ではないと思っていまし た。  私は思わず「ここは母さんの部屋だよ。ベッドを変えただけだよ」と、なだ めました。しかし言い終えた後に、すぐに否定したのは失敗だったなと反省し ました。幸い、母は納得して、新しいベッドで休んでくれ、その後も、認知症 にならずに済みました。 【名誉会長】 ちょっと理解に苦しむ言動に直面した時は、だれでも一瞬、驚く と思います。ですが、慌てず、怒らず受け止めて、明るく笑顔で接していくこ とが、大事なのですね。  病の背後には、不安や孤独が潜(ひそ)んでいる。その「心の叫び」を聴き、 「心の痛み」を分かろうとすることが、介護の出発でしょう。 ◆「孫は優しい」? 【名誉会長】 では、ここで、認知症にならないためのポイントを伺いたいと思 います。まず食事は、どうでしょうか。 【稲光】 やはり、バランスの取れた食生活が大切です。現代人に不足がちな食 物として、よく「ま・ご・わ・や・さ・し・い」が挙げられます。 【名誉会長】 「孫は優しい」ですか? 【稲光】 はい。覚えやすく、「ま(豆類)・ご(ゴマ)・わ(ワカメなど海藻 類)・や(野菜)・さ(魚)・し(シイタケなどのキノコ類)・い(イモ類)」 を意味しています。  これは、バランスが取れた、伝統的な日本の食事で、脳の病気はもちろん、 生活習慣病の予防にもなります。 【成見】 脳血管性認知症を防ぐには、塩分を取り過ぎないことです。原因とな る高血圧や動脈硬化を引き起こすからです。  具体的には、麺類のスープなどは、できるだけ飲まない。みそ汁、塩辛、つ くだに、しょうゆなどに注意して、なるべく薄味を心掛けることです。 【名誉会長】 これは前回の復習になりますが、魚の油には、アルツハイマー病 の主要原因となるタンパク質を脳内にたまりにくくしたり、また動脈硬化を抑 えたりする成分が含まれているんでしたね。 【道川】 そういう研究があります。また、神経細胞を傷つける活性酸素を防ぐ には、ビタミンEとC、ポリフェノールなどの抗酸化物質を豊富に含む野菜や 果物を摂取することが大切です。 【名誉会長】 他に注意すべきことはありますか。 【成見】 ぜひ禁煙を心掛けてください。たばこは、脳血管障害を来(きた)す 危険因子です。吸う人は、吸わない人の2倍も脳梗塞になりやすく、3倍、脳 出血になりやすいという報告があります。 ◆「経行(きょうぎょう)」とは? 【名誉会長】 認知症の防止には運動も欠かせませんね, 【道川】 おっしゃる通りです。運動は体内の血液の循環をよくし、脳の一部を 刺激したり、精神的にも良い効果があるようです。 【成見】 高血圧、動脈硬化の予防にも、運動が大切です。また、足腰の筋力を 維持するためにも、適度な運動を心掛けてください。しかし、激しい運動は逆 効果です。 【稲光】 無理なく、一日30分程度、「歩く」ことをお勧めしたいですね。背 筋を伸ばし、少し大股で、手を振って歩いてみてください。軽く汗をかく程度 が最適です。 【名誉会長】 仏法には、「経行(きょうぎょう)」と呼ばれる、いわゆる「歩 く」修行があります。これは、体調を整えるための一種の運動法です。  仏典には、「経行(きょうぎょう)」の効果が記されています。   ?体が鍛えられる   ?病気が少ない   ?消化がよい   ?よく思索できる   ?意志が強くなる ── などです。 【成見】 現代医学の認める「歩く」効能と通じます。 【名誉会長】 要するに、常に「歩いている人」「動いている人」は、心身共に 生き生きと健康になっていくということではないでしょうか。  その意味で、学会活動は最高の健康法です。会合に参加する、友の激励に歩 く、弘教に励む ── そこには常に「行動」があります。  しかも法のため、友のため、社会のための「献身の行動」です。  牧口先生も、広宣流布のために、率先して歩かれました。先生の愛用されて いたゲタは、いつもすり減っていたといわれています。 【成見】 池田先生が対談を進めておられる著名な心臓外科医のウンガー博士 (ヨーロッパ科学芸術アカデミー会長)も、「3階まではエレベーターを使わ ないこと」を一つのモットーとされていましたね。 【名誉会長】 そうです。とともに、博士は、長生きするためには、「身体面の 運動」と同時に、信念・信仰という「精神面の運動」が必要であると強調され ていました。  大聖人は「人のために火をともせば・我がまへあき(明)らかなる」(御書 1598ページ)と仰せです。  歩いた分だけ福運が積める、社会に尽くせる、友人が増える ── 広宣流布 の軌道こそ、最高の「幸福の軌道」「健康の軌道」なのです。 【稲光】 それが、学会活動の喜びですね。 ◆昼寝の効用 【名誉会長】 日々の活動が充実していれば、快適な眠りも生まれます。脳の活 性化には、睡眠も大事ですね。 【道川】 30分以内の昼寝をする人は、アルツハイマー病になりにくいという 調査もあります。 【名誉会長】 私が親交を結んだアメリカの実業家ハマー博士も、92歳で亡く なられるまで、日中、短い仮眠を取ることを励行されていました。  ともあれ、「睡眠」に勝る薬はありません。特に年配者は疲れをためないよ うに、あらゆる工夫をして眠るべきです。休憩時間などを、価値的に利用して、 自分で自分の体調を整えていくことです。  話は変わりますが、「認知症になりにくいタイプ」というのは、ありますか。 【道川】 作家や芸術家などは認知症になりにくいという報告があります。新聞 や本などをよく読み、文章を書いたり、絵画や彫刻など無から有を生じる創作 活動で、いつも頭を使っているからかもしれません。そういう人は、日ごろか ら脳内の神経細胞のネットワークを広げ、結び付きを強くして、アルツハイマ ー病になりにくくなっているのでしょう。 【名誉会長】 よく分かります。常に頭を"回転"させ、鍛えているから、認知 症になりにくい。その意味からも、良き「活字文化」が大事ですね。 ◆くよくよしない 【成見】 物事に、くよくよしない人も、認知症になりにくいのではないでしょ うか。いわゆる、ストレスも前進の力にしていける「プラス思考」の人です。 【道川】 どういう人が認知症になりやすいか、病気になる前の性格を調査した ところ、明らかに「マイナス思考」の人に多かったという研究があります。内 に閉じこもって無口になったり、非常に消極的になったりする性格です。 【名誉会長】 仏法では、この世を「娑婆(しゃば)とは堪忍(かんにん)世界 と云うなり」(同771ページ)と説いています。「堪忍世界」とは、あらゆ る苦悩を耐え忍ばねばならない世界ということです。つまり、生ある限り、ス トレスは避けられないということでしょう。  しかし、法華経の真髄には「衆生所遊楽(しゅじょうしょゆうらく)」とあ ります。すなわち、自らが胸中の「仏の境涯」を開くならば、この「堪忍世界」 が即、「衆生の遊楽する場所」となるとも説かれているのです。  戸田先生は、この「衆生所遊楽」の経文を通して、いつも言われていました。 「人間というのは、世の中へ楽しむために生まれてきたのです。苦しむために 生まれてきたのではない」と。  朗々たる唱題で、力強い生命力と豊かな智慧をわかせていくならば、決して 人生は行き詰まらない。ストレスさえも、「波乗り」のように、楽しみながら 乗り越えていける。何ものにも揺るがぬ「常楽我浄(じょうらくがじょう)」 の生命となり、人生となるのです。そのための信心です。 【稲光】 人生を自由自在に生き抜く、金剛不壊(こんごうふえ)の境涯ですね。  それから、ユーモアや笑いも大切です。  アメリカ、ハーバード大学の医学者は、「ユーモアは精神の活発な活動を促 (うなが)し、老化に対するもっとも重要な防衛策となる」(トーマズ・T・ パールズ、マージェリー・H・シルバー他著、日野原重明監訳・大地舜訳『1 00万人100歳の長生き上手』講談社)と指摘しています。' 【名誉会長】 そうですね。要は、多少のストレスがあっても、「楽しく乗り越 えたほうが得だ」と、はね返していく心のバネを発揮できるかどうかです。戦 う人生は朗らかです。  大聖人は、御自身の命に及ぶ大難を、「喜悦はかりなし」(同1360ペー ジ)、「風の前の塵(ちり)」(同232ページ)、「これほどの悦びをば・ わらへかし」(同914ページ)等、悠然と厳然と見下ろされておりました。 困難があればあるほど、「いよいよ喜んでいく」のが仏法の真髄です。幾つに なっても、この勇敢なる楽観主義で、朗らかに、快活に前進していきたいもの です。 ◆「一人でいるのはよくないこと」 【道川】 話し相手がいる人は、頭を使うという意味で、認知症になりにくいと いわれています。先ほどの調査によると、認知症になる人には、頑固で、わが まま、無口や短気で社交的でない人が多いというのです。 【名誉会長】 大切な点ですね。  ゲーテも、最晩年、語っていました。  「人間が一人でいるというのは、よくないことだ」「ことに一人で仕事をす るのはよくない。むしろ何事かをなしとげようと思ったら、他人の協力と刺戟 が必要だ」(前掲書『ゲーテとの対話』中巻)  老齢に入ってからも、こうした「開かれた心」で生きてゆくことが、彼の創 造的な若さの源泉となっていたのでしょう。  人間は年を取ると、自分の殻に閉じこもり、無気力・無関心になりがちです。  フランスの作家モーロワも、つづっています。  「老化にともなういちばん悪いことは、肉体が衰えることではなく、精神が 無関心になることだ」(中山真彦訳『人生をよりよく生きる技術』講談社学術 文庫)と。 【稲光】 そうなんです。特に、独り暮らしのお年寄りの場合、そういう傾向に なりやすいのです。そこから、認知症が始まりますから、周囲の人は何かにつ け、声を掛けてあげてほしいと思います。 【成見】 アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のジョージ・バーゾキ ス博士は「相手の反応を見極めて、臨機応変にやりとりすることが脳に大変よ い刺激になる」 (『老化に挑む』日本放送出版協会)と言っています。内にこもるのではなく、 人と接し、コミュニケーションを取ることで、元気な脳が保たれます。 【名誉会長】 「対話」の大切さが、科学的にも立証されているわけですね。  もちろん、対話といっても、なかなか細かいところまでは、自分の思いも伝 わらないし、相手の考えも理解できない。だからこそ、人とかかわっていくこ とは、人間を強くし、人生を豊かにする。脳も生き生きとさせるのです。  ゆえに、閉じこもらないで、臆病の壁を破って、人と会い、人と語る ── 人 生の最終章まで、この最も人間らしい実践に励んでいきたいですね。 ◆「老後の一日は千金にあたる」 【成見】 80歳を過ぎても活動的に生活している高齢者を調べたところ、地域 活動・ボランティア活動に参加している人が多く、交友関係も豊かだったとい います。 【名誉会長】 老いてなお、人々のため、地域のため、かくしゃくと行動する ── 素晴らしい健康人生ですね。そこに充実がある。  江戸時代の著名な博物学者・貝原益軒(かいばらえきけん)は「老後の一日、 千金にあたるべし」と指摘しています。  老境(ろうきょう)の時を、どう価値的に過ごすか。どう賢明に生かしてい くか ── これは長寿社会にあって、一番の焦点ではないでしょうか。まさに、 生きることの「質」が問われている。  大聖人は「百二十まで持(も)ちて名を・くた(腐)して死せんよりは生き て一日なりとも名をあげん事こそ大切なれ」(御書l173ページ)と仰せで す。  もちろん、「何歳まで生きたか」は重大な関心事ですが、より重要なのは、 限りある一生に、何を残したか。どんな価値を生んだか。どれだけの人を幸せ にしたか。どれだけ境涯を広げたかです。  私も広宣流布のために、わが尊き同志のために、年を重ねるごとに、1日を 1週間にも、ーカ月にも匹敵させる思いで働いています。  フランスの思想家ルソーは語っています。「もっとも長生きした人とは、も っとも多くの歳月を生きた人ではなく、もっともよく人生を体験した人だ」(今 野一雄訳『エミール』上巻、岩波文庫)と。  人のため、社会のために尽くし、「きょうも勝った」「きょうも充実の歴史 をつくった」と言える日々を積み重ねていく ── この満足感は永遠に不滅で す。もっとも価値的な人生を体験できるのです。 ◆◆◆ 勝利の頂(いただき)へ 人生の総仕上げを ◆≪ガルブレイス博士≫「人間は年を取るほど学ぶべき」 ◆◆ 「何を残すか」が長寿社会の焦点 ◆感動を忘れない人は若い 【成見】 先の調査で、さらに興味深いのは、活動的な高齢者の8割の人には、 「元気づけてくれる人」がいて、7割に「元気づけてあげる人」がいたという ことです。 【名誉会長】 学会の世界も、同じですね。日ごろから、老いも若きも、皆が互 いに励まし合っている。こんな麗しい集いはありません。ありがたいですね。 【稲光】 本当にそう思います。年を取ると、どうしても、無気力・無関心とと もに無感動になりがちですが、学会活動には、常に感動があります。 【名誉会長】 確かに、感動を忘れない人は、いつまでも若いですね。いつも生 命が新鮮で、表情も輝いている。 【稲光】 ですから、喜びや感動、感謝などを忘れない感受性豊かな人も、認知 症になりにくいと思います。 【名誉会長】 こう考えると、学会活動は全部、認知症の予防になっていますね。  毎日、御書や聖教新聞をはじめ活字を読む。悩みがあっても、くよくよしな い。信心で打ち破り、その体験を友のために語っていく。蘇生した友の姿に感 動する ── 心も体も頭も生き生きとする。学会活動に一切、無駄はないので す。 ◆「月月・日日につより給へ」 【道川】 そう思います。  認知症になりにくい人の条件として、最後に加えるとすれば、自分なりの生 きがいをもち、強い向上心をもち続けることではないでしょうか。  認知症とは角度が違うのですが、ある調査によると、見た目に若々しい人や、 地域、職場などの役職や立場をもっている人は、体力的にも生理的にも若いと いうのです。若さを保ち、健康でいるためには、引退したり、隠居したりして はならない。自らの使命に生き続けることの大切さを示していると思います。 【稲光】 確かに、定年後の生活について何も考えず働くだけ働いて退職すると、 健康を害する事例が増えているそうです。 【名誉会長】 生きがいに定年はありません。世界的な経済学者ガルブレイス博 士は97歳になられます。昨年、私は博士と対談集『人間主義の大世紀を ── わが人生を飾れ』を発刊しました。  81歳の博士とお会いした時に、「人間は、年を取れば取るほど、ますます 学んでいくべきだと信じます」と話されていたことも、思い出されます。 【稲光】 私が講師を務めている創価大学の通信教育部にも、向学の意欲にあふ れた高齢の学生の方々がたくさんいます。  神奈川に住む添田(そえだ)アサ子さんは現在、83歳です。65歳で特修 生(とくしゅうせい=大学入学資格のない人)として入学し、これまでに法学 部、教育学部を卒業。目や手に不自由がありましたが、「人の10倍を努力」 を目標に頑張り抜きました。「まだまだ、これから!」と、4月から「人間学 コース」で学ぶことになっています。 【名誉会長】 たゆみない向上心に頭が下がる思いです。戸田先生はよく、「人 生の総仕上げの年齢こそ一番大切だ」と言われていました。  わが人生の舞台は終わったと嘆くのではなく、いよいよ新たな舞台の幕は上 がったと、胸中に使命の旭日(きょくじつ)を昇らせる。御書に「月月・日日 につよ(強)り給へ」(1190ページ)と仰せの如く、前へ前へと進むこと です。 ◆天からは花が空には音楽が 【成見】 アメリカの高齢者に、充実した老いの境涯を謳った、こんな詩があり ます。  「年齢は山の頂上にある   近づけば近づくほど空は青い   長く困難な登山   少し疲れたが    しかしなんと美しい景観であろうか!」  (リン・ピータース・アドラー著、鳥飼玖美子監訳『100年を生きる』三 田出版会) 【名誉会長】 晴れ晴れとした詩ですね。広布に生き抜いた、われわれの死後の 生命について記された御聖訓があります。  「南無妙法蓮華経と唱え、退転することなく仏道修行をして、最後の臨終の 時を待ってごらんなさい。  妙覚(みょうかく)の山に走り登って、四方をきっと見るならば、何と素晴 らしいことであろうか、法界(ほうかい)は寂光土で、瑠璃(るり)をもって 地面とし、黄金の縄をもって八つの道を仕切っている。  天から4種類の花が降ってきて、空には音楽が聞こえ、諸仏菩薩は常楽我浄 の風にそよめき、心から楽しんでおられる。  われらも、その数の中に連なって、遊戯し楽しむことができるのは、もう間 近である」(御書1386ページ、通解)  妙法のために生き抜き亡くなった方の生命は、このように「常楽我浄」の境 涯となって、永遠の生命を楽しみきっていくことができるのです。  また、戸田先生は「この信心を貫けば、生きていること自体が楽しいという 絶対的な幸福境涯になっていく」と言われていました。  晴れやかな人生と広布の大勝利の頂(いただき)を目指し、楽しく、朗らか に挑戦の峰を登攀(とうはん)していく ── これこそが、われわれの最大の 生きがいであり、健康法なのです。