2006.3.4SP ―――――――――――――――――――――――  「生老病死と人生」を語る          第13回 現代医療の課題〔上〕 ――――――――――――――――――――――― ◆◆◆ 〔患者第一〕こそ医療の原点      ── 事故を防ぐにはリーダーが最前線で対話を! ◆◆ 哲学があって技術も生きる 【池田名誉会長】 オコンネルさん、遠いところ、本当によくお越しください ました。お元気で何よりです。 【オコンネル】 池田先生!お会いできて、これほど、うれしいことはありませ ん。 【森田】 オコンネルさんは、アメリカで女性として初めて、総合病院の最高経 営責任者(CEO)になった方です。 【名誉会長】 よく存じ上げています。有名なサンフランシスコ総合病院でした ね。 【オコンネル】 その通りです。1998年から、最高経営責任者を務めてきま した。 【森田】 その激務の傍(かたわ)ら、地区部長として広宣流布の最前線で活躍 されています。 【オコンネル】 今日の私があるのは、全部、創価学会のおかげであり、先生の おかげですから! 【名誉会長】 オコンネルさんは長年、看護師としても献身してこられた。日本 の創価学会で言えば、「白樺会・白樺グループ」(看護師の集い)の方です。 看護師としての実績から現在の重責ある立場に抜擢(ばってき)されたことも、 尊い歴史です。 【森田】 きょうは、女子部の白樺グループを代表して、林さんも出席してくれ ました。 【林】 よろしくお願いします。 【名誉会長】 林さんは、今年の1月に委員長に任命されたのですね。 【林】 はい、そうです。 【名誉会長】 お母さまも、白樺グループの初代責任者でした。忘れ得ぬ永遠の 同志です。  その使命のバトンを受け継がれ、親子2代で気高き看護の道を歩まれている。 お母さまも、きっと喜ばれていることでしょう。 【林】 私の原点は、母が亡くなった時、東京創価小学校で、池田先生から、言 葉に尽くせぬ大激励をいただいたことです。 【名誉会長】 日本も、世界も、「女性の世紀」「生命の世紀」にふさわしい、 さわやかなリーダーが春風のように、さっそうと活躍されていますね。 【森田】 ドクター部でも、女性医学者の前進が光っています。 ◆「希望は寿命を延ばす力がある」 【森田】 最初に、オコンネルさんと仏法の出あいについて、教えていただけな いでしょうか。 【名誉会長】 全世界の同志の希望になりますから、ぜひ、お願いします。 【オコンネル】 喜んで!先ほどもご紹介いただ いたように、現在、私は、サンフランシスコ総合病院の最高経営責任者を務め ています。実は、32年前、仏法に巡りあったのも、不思議にも、この病院の 待合室だったのです。  当時、私は28歳。夫と離婚し、二人の幼子(おさなご)を抱え、食べる物 にも困る生活が続いていました。社会保障に支えられ、生きていくのがやっと。 子どもたちは病気がちで、病院通いが続いていました。 【名誉会長】 一番、苦しい時代でしたね。 【オコンネル】 はい。診察までの待ち時間、決まって私は考えたものです。"私 の人生は一体、どうなるのだろう……"。  そんな時でした。待合室で隣に座ったアメリカSGI(創価学会インタナシ ョナル)の女性メンバーが、親切に声を掛けてくれたのです。 【名誉会長】 その出会いが、人生に大転換をもたらしたのですね。 【オコンネル】 そうです。初めて参加した座談会で味わった、あの家族的な雰 囲気は決して忘れることができません。  "私のことを真剣に思ってくれる人たちが、ここにいる!"。そう思うと、 心の底からホッとしました。  創価学会と出あい、未来への希望を見いだした私は、子どものころからの夢 だった看護師を目指して、当時、授業料が無料だった大学に入学しました。 【名誉会長】 日蓮大聖人の仏法は「希望の哲学」です。  「法華経を信ずる人は冬のごとし冬は必ず春となる」(御書1253ページ) との御聖訓に象徴されるように、妙法に生き抜く人の人生には、決して行き詰 まりはない。どんな難問も必ず打開し、さらに大いなる希望に向かっていくこ とができる。  「ザ・ホープ」です。「希望」ある人は、常にみずみずしく生命が躍動して いる。仏典にも「希望は身体を長養(ちょうよう)し、寿命を延ばす力がある」 と説かれています。 【森田】 確かに、「前向きな感情をもつ高齢者は衰弱しにくい」という調査も あります。「希望」こそ、心身の若さの源泉ですね。 【名誉会長】 病気の人も希望をもって生きることが大切です。たとえ、今、病 床に伏していようとも、負けてはいけない。苦労が大きいのは、使命が大きい からです。病気になったのも、使命があるからこそです。  大聖人は、「このやまひは仏の御はからひか」(同1480ページ)とも仰 せです。現在、病気と闘っている方は、どうか、仏法の偉大な力を証明する大 使命があることを確信して、断固、勝ち越えていってください。 ◆皆に尽くす! ── その心に健康が 【オコンネル】 私の心にいつも「希望」の灯をともしてくれたのは、SGIメ ンバーでした。  相変わらず生活の苦しかった私に、日本人の婦人部の方々が、"おにぎり(ラ イス・ボール)"を作って励ましてくれたのです。  それまで、日本の文化に縁遠く、見たこともない食べ物でした(笑い)。あ の時、口に広がった"真心の味"ー私は一生忘れられません。 【林】 私が看護師を目指したのも、学会の先輩方の真心の激励があったからで す。  母が「悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ)」という、がんで亡くなった 時、私は小学3年生でした。その後、白樺の先輩方から、看護という使命に懸 けた母の思いを教えていただき、中学生の時に"母の遺志を受け継ぎ、看護師 になろう!"と決意したのです。 【名誉会長】 そうでしたか。わが同志、特に婦人部の真心は本当にありがたい ね。"この人を幸福にしよう!""あの人に成長してもらいたい!" ── 何 の見返りも求めず、ただ皆の幸せを願って行動していく。これほど崇高な人生 はありません。この「菩薩の心」「菩薩の行動」にこそ、「健康」 の真髄があるのではないでしょうか。 【森田】 先生と、カナダ・モントリオール大学のシマー博士、ブルジョ博士と の語らいでも、「健康」の積極的な定義が論じられました。すなわち健康とは、 単に「病気でない」という消極的な状態ではない。生き生きと、ダイナミック に環境に働き掛ける生命の躍動の中にこそ、健康の内実があるという視点です。 【オコンネル】 私が、池田先生に初めてお会いできたのは、入会の翌年です。  1975年、ハワイで行われた全米総会で、救護役員として着任していまし た。終了後、先生は会場内を歩かれながら、大きく手を振って私たち役員も激 励してくださいました。  その姿を見て、私は、まばゆい太陽が心の中に飛び込んで来るような気がし ました。そして、私を励ましてくれたSGIメンバーの真心の源泉も、すべて、 この偉大な師匠の存在なのだと気付いたのです。 【名誉会長】 恐縮です。いつもいつも、救護の役員に就いてくださる白樺の皆 さま、ドクター部の方々に、あらためてお礼を申し上げます。 ◆学会活動に無駄はない 【林】 オコンネルさんは、大学を卒業した後、大学病院に看護師として勤務さ れた。その実績が認められて、現在の病院に採用されたと伺いましたが。 【オコンネル】 そうです。今の病院に勤務してからも、"仏法と出あった思い 出の場所で、ぜひ、信仰の実証を示したい"と必死でした。ですから、患者さ ん一人ひとりの回復を心から願い、真剣に唱題を重ね、常に最良のお世話を心 掛けました。  困難な仕事を頼まれても、決して「ノー」とは言いませんでした。どんなに 苦しい時も、笑顔を絶やさないようにしました。 【森田】 そうした仕事の姿勢は、どこで培われたのですか。 【オコンネル】 すべて、学会活動の賜です。先生のご指導のおかげです。  学会活動に一切、無駄はありません。特に、相手の悩みに耳を傾け、真心を 込めて激励する ── そういう姿勢を身に付けることができました。  すると、いつしか、患者さんや看護師仲間、さらに医師も、何かあると、皆 が相談に来るようになったのです。 【名誉会長】 法華経には、「栴檀(せんだん)の香風(こうふう)は衆の心を 悦可(えっか)す」という美しい一節があります。誠実な振る舞いは、すがす がしい「香風」のように信頼を広げていくものです。  牧口先生が教えられた通り、「なくてはならない人」として光っていくこと が勝利です。 ◆◆ 信頼できる病院は       ── 医師と看護師が団結       ── 互いに尊敬を! 連携を! ◆病院を一番よく知っている人! 【森田】 病院で信頼を勝ち得たオコンネルさんはその後、推薦を受けて「師長 (しちょう)」に。さらに看護師局の全責任を担う「総師長」、全部局を統括 する「事務総長」を経て、8年前に、病院全体を代表するトップに就任された のですね。 【オコンネル】 はい。本来なら、経営手腕に優れた大企業のトップや、権威あ る医師が就く役職です。しかし、任命権をもつサンフランシスコ市当局が、私 の就任を全面的に支持してくれたそうです。 【名誉会長】 全米で初の女性、しかも看護師出身の最高経営責任者 ── 異例 ずくめの決定は、世界的にも大きなニュースになりました。どういう点が評価 されたと思いますか。 【オコンネル】 昇格の理由の一つは「病院のことを、一番よく知っているから」 だったそうです。 【名誉会長】 なるほど!  確かに優秀な看護師さんは、患者さんの状況にしても、一番早く、一番的確 につかんでくれますね。 【森田】 はい。医師の力も、担当の看護師によって決まるといって過言ではあ りません。 【名誉会長】 すると、優秀な看護師さんが多い病院は、優れた病院だというこ とですね。 【森田】 信頼できる病院を見極める重要な着眼点だと思います。 ◆連携不足は医療ミスの原因に! 【林】 医師と看護師が信頼で結ばれ、連帯感のある病院は信頼できます。です から、両者の間には、常日ごろから、コミュニケーションが大切です。連携不 足は、医療ミスの原因にもなりますから。 【名誉会長】 いかなる組織も、その発展は「団結」で決まる。「異体同心なれ ば万事を成し同体異心なれば諸事叶う事なし」(御書1463ページ) ── こ れは鉄則です。 【森田】 例えば、夜勤の看護師が看護記録を丁寧に書いておいてくれると、翌 日、医師が回診する際に、とても役立ちます。 【林】 看護師も、医師から「きょうの夜は、よろしくお願いします」と一言で も声を掛けられると、励みになります。 【オコンネル】 チームワークを取るには、互いの知識や情報を尊重し合うこと でしょう。医師には医師の専門知識があり、看護師には日常的に患者さんと接 している生きた情報があります。看護師は医師に、刻々と変化する患者さんの 状況を報告する義務があるし、医師には、その報告に耳を傾ける責任があるの です。 【名誉会長】 「真の団結」は、大きな目的観に立って、互いに尊敬し合うこと から生まれます。患者さんの治療は、医師だけではできません。看護師や技師・ 薬剤師、事務職員など、関係者の団結があって初めて可能となる。皆がかけが えのない存在です。 ◆医師と看護師は平等な協力者 【オコンネル】 看護師が必要以上に気を使わなければならない、気難しい医師 がいることも事実です(笑い)。 【名誉会長】 看護師や医師も、人間です。仕事以外にも、さまざまな悩みを抱 えながら働いている。ですから、時には感情的になることもある。その時こそ、 「患者あっての医師であり、看護師である」という原点に返るべきでしょうね。  とともに、決して「医師が上、看護師が下」ではありません。大聖人は、団 結を破ろうとの画策に直面した池上兄弟に「二人が団結した姿は車の両輪のよ うなものである。鳥の二つの羽のようなものである」(同1108ページ、通 解)と仰せです。  医師と看護師も同じです。ある意味では医師が治療し(キュア)看護師が癒 す(ケア) ── 患者さんの生命を守るという同じ目的に向かって、車の両輪 のように進む、平等なパートナーであり、同志であり、協力者ではないでしょ うか。 【森田】 「看護師さんは、お医者さん以上に大切な存在である」ともいわれま す。それを自分の部下のように扱うことは、とんでもないことです。 【名誉会長】 いずれにせよ、看護師さんは、もっと大切にされなければなりま せん。  明治の文豪・夏目漱石は胃潰瘍などのため、たびたび入院しましたが、いつ も看護師さんには敬意をもって接していたようです。例えば、事前に名前を確 かめておいて、看護師さんのことを、「○○さん」と必ず名前で呼んだといい ます。さすが漱石です。 【林】 そうした心配りは、うれしいものです。 ◆私たちは患者のために集ってる 【名誉会長】 オコンネルさんが、最高経営責任者として、病院発展のために、 一番心掛けていることは何ですか。 【オコンネル】 「どのようにして患者さんに必要なサービスを提供するか」 ── この一点に心を砕いています。  そして、先ほど、先生が言われましたように、医師や看護師たち病院の全関 係者が「私たちは患者さんのために集っているんだ」との意識に立てるよう、 励まし、触発し、支えていくことを心掛けています。 【名誉会長】 素晴らしい信念です。「だれのため」「何のため」という原点を 見失わないことですね。 ◆知恵は第一線に 【名誉会長】 残念ながら日本では近年、医療ミスによる事故が相次ぎ、重大な 社会問題となっています。皆さんは医療ミスを防ぐために、どんな対策を講じ ていますか。 【オコンネル】 病院内でのあらゆる患者さんの安全を確保するためには、どう したらいいか ── それだけを集中して考える特別委員会を設けています。 【森田】 一歩手前で事故を防げた「ヒヤリ・ハット」事例を報告し合うことも 大事です。ミスは、だれでも起こす可能性があります。ですから、どうしてそ の事例が起きたのか、情報を共有することで、互いに注意を促し、新たなミス を防ぐ仕組みを構築していくことが可能となります。 【林】 先輩の看護師長が、チーズの例を通し て、教えてくれたことがあります。  人間は穴が開いたスライスチーズと同じだ。だれしも足りない所がある。こ れが事故の原因になる。しかし、スライスチーズを重ねると、穴が下まで達す る割合は小さくなる。同様に、何人かで協力し合うと、事故が起こる可能性は 少なくなる ── というのです。 【名誉会長】 なるほど。皆の意見を聞き、さまざまな問題点を吸い上げ、知恵 を結集していく。そこから、「無事故」という勝利も勝ち取れるのでしょう。  そのためにも、直接、会って対話を交わし、迅速かつ綿密に、協議を重ねて いくことが大切ですね。独り善(よ)がりや横着は、大敵です。 【オコンネル】 うちの病院には、私をはじめとする管理職チームがあります。 このチームは、医師や看護師はもちろん、清掃担当者まで含め、病院の最前線 で働く人に直接会い、「どうしたら患者さんの安全を向上させることができる か」、対話を重ねています。 【名誉会長】 大事な実践です。知恵は第一線にあるからです。 ◆生命尊厳の哲学こそ安全の基盤 【森田】 医療ミスの根本的な原因と言えるかもしれませんが、時として医師や 看護師が「生命尊厳の思想」をおろそかにしてしまう場合があります。 【オコンネル】 決してあってはならないことです。患者さんへの献身的な姿勢 も、生命を大切にする哲学から生まれます。これこそ、医療に携(たずさ)わ る者の根本です。 【名誉会長】 医療には、「技術」と「奉仕」と「祈り」の三つが必要であると 聞いたことがあります。その底流には、やはり正しい生命観が不可欠なのでは ないでしょうか。そうした確固たる哲学があって、技術も、奉仕の心も、祈り も生きてくる。初めて「患者第一」の医療が実現するからです。  大聖人は仰せになられました。「命というものは一切の宝の中で第一の宝で ある」(同1596ページ、通解)と。あらゆる分野で「安全」「安心」が揺 (ゆ)らいでいる今こそ、「生命より尊いものは何もない」という原点に立ち 返って、一つ一つを真剣に見直しながら、「安全第一」「無事故第一」で前進 していきたいものです。