2006.6.1SP ――――――――――――――――――――――――――――――――――  名誉会長アルバム「対話の十字路」 第30回   インド文化関係評議会会長 ネルー大学総長  カラン・シン博士 ―――――――――――――――――――――――――――――――――― ◎未来のために宗教間の対話を  色鮮やかな、大きな鯉のぼりが、生き生きと空を舞っていた。  青々と茂った芝生。松や葉桜が薫る新緑の庭園を、時折、強い風が吹き抜け る。  しばし、庭に出した丸テーブルを囲み、ジュースを飲みながら歓談。  「じつに素晴らしい庭園です!」  「日本の気候は、本当に心地がいい」  貴公子の風格をたたえたカラン・シン博士が、何度も感嘆の言葉をもらした。  1985年4月26日、世界の識者との語らいの舞台となってきた兵庫の関 西戸田記念館。博士との3度目の会談は、旧知の友との再会の喜びにあふれて いた。  「きょうは、"インドの愛好者"が集まっているので、ぜひ博士ご夫妻と記 念撮影をお願いします」と池田名誉会長。  元気に空を泳ぐ鯉のぼりの下、関西の友らとともに記念のカメラに納まった。            ◇  かつてカシミール地方の藩王(はんおう)だった人物を父にもつシン博士。 36歳でインド下院議員となり、教育文化相などを歴任した。  またインド文化関係評議会(ICCR)の会長を務めるなど、大国インドの 対外的な"顔"として活躍してきた。  政治家として、インドの精神に根ざした一級の文化人として、名実ともに同 国を代表する人物である。  東洋の英知の光で人類の未来を照らしたい ── この日の語らいでは、発刊 の準備が進んでいた対談集が話題となった。  博士は語った。  「この対談は大変に重要なものだと考えています。私も真剣に取り組んでい ます。  ただ、昨年はインドにとって不幸な年でした。インディラ・ガンジー首相が 暗殺されたのです。  もっと対談に時間を費やしたかったのですが、それができませんでした」  祖国を襲った暴力の悲劇。アジアの大国の苦悩は続いていた。  そして世界もまた、東西冷戦の渦中にあって、核戦争という破滅的な暴力の 影におびえていた。  科学技術は長足(ちょうそく)の進歩を遂げた。しかし人間は、その欲望や 衝動を抑制することができず、愚かな争いを繰り返している ── 。  博士は、現代文明の闇を見つめていた。そして、その解決の方途を名誉会長 との対話に求めたのである。  「結局、この地球上のすべての人間のなかにこそ新しい意識の砦を築かなけ ればなりません」  これが博士の一つの結論であった。  国際会議への参加など、日本でも多忙な日程をこなすシン博士。  「きょうはともかく、"大きな一休み"をしてください」と名誉会長。  博士は名誉会長の心遣いに感謝し、笑顔でこう語った。  「ぜひ私の父祖の地であるカシミールにいらしてください」  「名誉会長は、私のベスト・フレンド(親友)ですから!」           ◇  92年2月、名誉会長は13年ぶりにインドを訪問。ニューデリーにあるシ ン博士の私邸を訪れた。  風通しのいい、オープンな造りの家。インド特有の香料の匂い。その一角に はプールがあり、青や赤色の壁が美しい。  世界を分断した東西冷戦の終結から3年。  二人の対談集『内なる世界 ── インドと日本』はすでに発刊され、大きな 反響を広げていた。  「私どもの対談集は、仏教とヒンドゥー教の対談というユニークなものとな りました。仏教もヒンドゥー教も対話を重んじます」と、深い感慨を語る博士。  名誉会長は言った。  「現在の変化の一つの核心は、『対話の時代』が始まったことでしょう。一 方的な押しつけは、もはや不可能になりつつあります」  博士は名誉会長への賛意を述べ、21世紀へ向かって"人類は一つの家族" との意識を育てていきたいと訴えた。 **************************************************************** カラン・シン 1931年生まれ。カシミール大学を卒業し、デリー大学で博士号を取得。4 9年から18年間、インドのジャムー・カシミール州の首長を務めた。67年 に36歳で下院議員となり、インド史上最年少の大臣として入閣。観光・民間 航空相、教育文化相などを歴任したほか、駐米大使としても活躍した。インド 文化関係評議会(ICCR)会長、世界ヒンディー語財団会長、ネルー大学総 長なども務める。池田名誉会長と5度会談し、対談集『内なる世界 ── イン ドと日本』を発刊。日本語、英語、タイ語の3言語で出版され、反響を広げて いる。博士は昨年10月、デリー大学での"ガンジー・キング・イケダ展"の 開幕式に出席し、同対談集の意義について語った。 ****************************************************************